本記事はBenchmark Email本社のブログ記事 “iOS 15 and How it Will Change Your Email Marketing” を参考に日本のユーザー様向けに書いたものです。

Apple社製品のOSアップデートのリリースにより、ユーザーのプライバシー保護が強化されることが発表されています。

Benchmark Emailのユーザー様にとっては、iPhone、iMac、iPadでのメール購読者に対するレポート機能・A/Bテスト機能・アクションメール機能・EMA(β版)機能への影響が想定されるため、この記事では以下についてお伝えします。

・Apple社製品のOSとは
・「メールプライバシー保護」機能の概要
・対象となる読者数は
・影響を受けるBenchmark Emailの機能とは
・プライバシー保護の流れに則したメール配信とは

はじめにiOS15のアップデート概要をご説明し、メールマガジンの効果測定やオートメーションの配信にどのような影響があるのか、そして今回のようなプライバシー保護方針の影響を受けにくいメールマーケティングの手法をお伝えします。

Apple社製品のOSとは

一番耳馴染みのあるのは「iOS」ではないでしょうか。これはApple社製デバイスのiPhoneで使われているオペレーションシステムです。
PC製品であるiMacのオペレーションシステムは「macOS」と呼ばれ、iPadでは「iPadOS」が、スマートウォッチであるApple Watchでは「watchOS」が使われています。

今回の「メールプライバシー保護」に関するアップデートはiOS 15、iPadOS 15、macOS Monterey、watchOS 8すべてに共通するものです。

「メールプライバシー保護」機能の概要

これらのOSは2021秋にリリースされる予定で、アップデートの一部としてApple社が純正メールソフトであるApple Mailアプリの利用者に「メールプライバシー保護」機能を提供するようになります。これは上記で取り上げたApple社製品のOSすべてに共通しています。

“この「メールプライバシー保護」は、メールが開封されたかどうかを送信者に知られないようにします。IPアドレスを隠し、送信者がIPアドレスを使って、ユーザーの位置情報を把握したり、プロファイルを作成したりできないようにします。”
Apple社のプレスリリース(2021年6月7日)より

Apple Mailのユーザーがこのプライバシー機能を選択した場合、メールマーケターは以下のような影響を受ける可能性が、現段階では想定されています。

  • 読者の開封/未開封に関わらず、「開封済み」と表示される
  • 開封時間、開封位置、開封デバイスの計測が正確に行えない
  • 以上のように、追跡用ピクセルとIPアドレスによって取得している情報に影響がある

その一方で、アップデート後も変わらずにアクセスできる情報として、以下などが想定されます。

  • リンククリック
  • 購読停止
  • Google Analytics経由のアクセス

このように見ていくと、メールの効果測定を行う際の指標が一部取得できなくなると理解できます。そのためメルマガ配信対象や現在の効果測定方法によっては、新しい効果測定の方法に切り替える必要があります。

対象となる読者数は

繰り返しとなりますが、対象となるのはApple Mailを利用してメールを受信している読者です。
あくまでもApple Mailはメールを読むためのアプリであることから、@icloud.com、@gmail.com、@benchmarkemail.wpengine.comといったあらゆるアドレスを登録することができます。

そのため、読者がApple Mailの利用者かどうかを、メールアドレスから判別することはできません。またその逆も然りで、たとえApple社製品を利用していても、Gmailアプリ等を受信に使っている読者であれば、「メールプライバシー保護」機能の対象にはなりません。

このような理由から、Apple Mailを利用している読者を抽出することは難しいといえます。同様にその数を正確に予測することも難しいのですが、少しでも参考にできそうなデータを見てみましょう。

日本のスマートフォンユーザーにおいて、Appleの比率は約55%と言われています(公正取引委員会による2021年1月の調査より)。

また、PCでのメール開封では平均2割弱がApple社のMailアプリで開封されているようです(Litmus社のグローバルデータをもとに算出)。

メルマガ読者のAppleユーザー比率が予想できない場合は、スマートフォン読者では約5割、PC読者では約2割のデータに影響が出ると考えておくといいでしょう。

当社調査によると、国内のメールソフトのシェア1位はGmail、2位はYahoo!メールでした。これらの開封率は引き続き計測ができるため、「開封率の推移」や「前回との差分」などからメールの効果を把握する方法は今後も有効ではあります。ただしリリース後は平均開封率が上昇すると予想されますので、リリース以前の開封率データとは分けて比較をすると良いでしょう。

影響を受ける可能性のあるBenchmark Emailの機能は

  • メールレポート

Apple Mailの読者は開封/未開封に関わらず「開封済み」と判断されるため、購読者に占めるApple Mailの利用比率によっては、開封率が実際の数値より高めに表示される、また開封時間レポートと開封マップレポートでは、Apple Mailの読者においては実際とは異なる結果が表示される可能性があります。

  • アクションメール・EMA(β版)

Apple Mailの読者は開封/未開封に関わらず「開封」と判断されるため、「開封」した読者にのみ送信するオートメーションが、実際は未開封の読者にも送信されます。正確な開封時間が計測できないため、開封からの時間経過を基準に設定したオートメーションは、Apple Mailの読者に対しては意図しないタイミングで届く、または意図したタイミングで届かないことが予想されます。

  • ホットリード機能・エンゲージメントスコア

「開封」を基準にホットリードリスト/コールドリストを作成する際、Apple Mailの読者は正しいグループに割り振れない可能性があります。また、エンゲージメントスコアも実際よりも高いスコアで表示される可能性があります。

  • A/Bテスト

Apple社の「Mail」ソフトで受信した読者はすべて「開封」と判断されるため、正確なA/Bテストの結果が得られない可能性があります。A/Bテストを引き続き活用したい場合は、A/Aテストを何回か行って結果の振れ幅を計測しておく必要があるでしょう。

プライバシー保護の流れに則したメール配信とは

このiOS15のアップデートに備えて、以下のような対策を行うことで今後も効果的なメールマーケティングを実現することができます。

(1)アップデート前の開封率を記録・保存する

iOSのアップデート後も、他のメールソフトの開封率は計測できるため、これまでと同等の基準で開封率は取れなくても、上昇・下降の変遷を見ていくことはできます。ただし、アップデート前のメルマガ開封率と比較が有効ではなくなることと、OSのアップデートはすべてのユーザーが同日に行うのではなくだんだん増えていくことを留意しておきます。

アップデート前の開封率をまだ分析していなければ、半年や1年単位での平均開封率の推移、開封率の高い件名やトピックなどを確認しましょう。アップデート後のデータが蓄積するには時間がかかりますので、しばらくはアップデート前のデータから得たノウハウで効果的なメルマガを考えていきましょう。

(2)ほかの効果測定基準を持つ

開封率だけで効果測定を行っていた場合は、他の指標を活用できるようにしましょう。クリック率やコンバージョン率はこれからも分析できます。

こちらの記事ではクリック率、配信停止率、エラー率、コンバージョン率といった指標を紹介しています。
関連記事:開封率?クリック率?メルマガ効果測定で大切な指標とは

これまでのメルマガは大きく分けると、読むだけで情報が得られる「メルマガ完結型」と、サイトへ誘導する「クリック誘導型」がありました。読者側からするとメルマガから得られる情報やクーポンなどのメリットはこれからも変わりません。「良いことを知れてよかった」「商品が欲しくなる」という気持ちの変化にも変わりはないでしょう。

ただし送信側からするとフィードバックを得たいので、「クリック誘導型」のメルマガは増えていくと予想されます。積極的に効果測定を行いたい場合は、読者の関心度がクリックで測れるようなコンテンツ設計を行うといいでしょう。Google Analyticsを導入しながらも、まだ活用できていない場合は、活用を始めましょう。

(3)A/Bテストの前にA/Aテストを行う

A/Aテストとは、まったく同じ内容のメールをA/Bテスト機能を使って送信することです。理論上は同じ結果が出るはずですが、実際送信してみると「誰に送信されたか」によって異なる開封率が出るでしょう。

A/Aテストを何回か行うと「○%くらいの差であれば有効と言えないな」という基準がわかってきます。

アップデート後のA/Bテスト(開封)では、Apple Mailユーザーによる誤差が発生する可能性に注意をしなければいけませんが、A/Aテストで得た基準を念頭におけば、十分な検証を行うことができるでしょう。

(4)開封基準のアクションメールやEMAを見直す

「影響を受けるBenchmark Emailの機能は」の章で触れた通り、開封を基準にしたオートメーションは、Apple Mailのユーザーに対しては「開封していない人にも送られてしまう」「開封時間が正確に計測されないので、意図していないタイミングで届く」という事象が起きてしまいます。

クリック基準のオートメーションに変更するか、または内容を工夫して開封していない場合に送られても差し支えないようにしておきましょう。

(5)コールドリストとホットリードリストを作成しておく

メルマガの開封成績によって作成するリストは、今後正確なものを作るのが難しくなります。今のうちにAppleのOSがアップデートされる以前のデータを用いてリストを作成し、手元に置いておくといいでしょう。

関連FAQ(利用ガイド):ホットリード機能とはなんですか?

(6)パーミッションリマインダを入れる
メルマガ読者にとってはプライバシーへの意識が高まる機会になるでしょう。「このメールはご登録された方に配信しています」といったリマインダを入れておくことで、誠意あるメール配信をしていることを伝えられます。

関連FAQ(利用ガイド):パーミッションリマインダーの編集方法

今回のアップデートによって、マーケティング戦略に影響を受けるユーザー様もいれば、大きな変化はないという方もいるでしょう。そうした中で、今回のアップデートの影響をまったく受けない方がいます。それはメルマガの読者です。送信側で測定できる数値が変わっても、メールが届いたときに読者が取る行動や、コンテンツを楽しみにする理由や、メルマガに求めているものは変わっていません。

これからも読者が求めるコンテンツを届けていくために、この記事を参考にして、効果測定の工夫を行なっていただければ幸いです。

 

 

(以下2021年8月31日追記)

補足:技術的な仕組み

最後に、技術的な仕組みをご紹介します。

Lismus社のエンジニアリングチームが開発者ベータ版でテストを行い、現在では下記のことが分かっています。*こちらの内容はLitmus社のブログ記事を参考にしています。

1:受信者のApple Mailアプリが起動すると、送信者のウェブホストやメールサービスプロバイダ(ESP)から受信者のデバイスにメールがダウンロードされます。

2:その際、通常はメールが読まれる前に、Appleはメール内のすべての画像をキャッシュし、特定のジオロケーションではなく、加入者の一般的な地域に割り当てられたIPアドレスを持つApple Privacy Cache上の新しい場所に画像のコピーを作成します。当社(Litmus社)のテストによると、この処理を行うためには、加入者がワイヤレスネットワークに接続し、メールアプリをバックグラウンドで実行している必要があります。

3:このキャッシング処理では、Appleがメールサービスプロバイダ(ESP)のサーバに開封トラッキングピクセルを含む画像を要求する必要があり、ESPはメールが開封されたと認識します。

4:購読者が実際にメールを開くと、メールの画像をダウンロードして表示するためのリクエストが発生しますが、画像は送信者のウェブホストやESPサーバからではなく、Apple Cacheから送られてきます。